ラスベガスのプロフェッショナル

Sabajapan2007-01-23


 当コラムでは、色々なプロフェッショナルを取り上げていきたい。
 今年の年賀状にカジノ研究のことを書いたら、多くの方から反響があった。「何故細井がカジノ?」というコメントが多かったが、あの雰囲気が好きなんだから仕方ない。意外とハマッている人も少なくなく、凝った人は、各カジノで集めたチップを写真撮影して送ってきてくれた。
 私は毎年研究テーマを決めて、情報収集と考察を行っている。一昨年は「一匹狼」をテーマにして人財マネジメント論の仮説になった。

 ギャンブルは一般的には良い印象がないことは事実である。身を滅ぼすきっかけにもなるが、全ては自制心だ。この自制心は勝つためのポイントでもある。残念ながら公式カジノは日本に存在しないが、日本でもパチンコは20兆円を超える大きな産業であるし無視できない、競馬は紳士淑女のゲームでもある。

 今回取り上げるのはラスベガスで遊んでいた時のこと。ゲームの種類はルーレットであった。そこそこ軍資金があったので、ミドルローラー(そこそこの掛け金をベットするプレイヤーのこと)レベルで遊んでいた。周りには小額のプレイヤーが多かったので、私が目立ったのかもしれない。また賭けに外れた時、たまたまピットボスの目についたのかもしれない。実際はそんなに負けていなかったが。ピットボスとは、ディーラーの後ろでゲーム全体を監視するマネージャのことである。私の方に笑顔を見せながらSeanというピットボスが、ディーラーのBryanに向って「Kazuoの番号に落とせ!」と指示をした。Bryanはとっても真面目そうで落ち着いた、シニアなディーラーである。無言ながらも頷いたので、私はゼロを示した。いつもより気持ち慎重にルーレットの球を投げたような気がする。最初の1投、球はゼロに落ちそうになった後、番号区切りのバーに当り、跳ねて5つ横の4番の数字へ落ちた。ルーレットを経験された方は理解できると思うが、予測した近辺にもベットしておくのは常識である。近辺の4番にも賭けておいたので、そこそこの配当が戻ってくる。
 さて2投目、またも真剣な表情で球を投げると、なんとゼロにスポリと球は収まった。周囲からはどよめきが起こり、私の目の前には大きなチップの山がきている。ピットボスのSeanはウインクして笑っている。
 あまりにも驚いたので、ディーラーに質問。

  • 「いつも的中させることができるのか?」(私)、
  • 「いや、いつもではない。」(ディーラー)、
  • 「簡単そうに見えた。」(私)、
  • 「簡単ではない。でも俺よりもっと上手な奴がいる。」(ディーラー)

 この事実からわかることは、ギャンブルも、運のみで支配されているわけではないこと。プロのディーラーにかかれば、統計的な勝率はあてにならないということだ。完全にコンピューター制御されているスロットマシンならばいざ知らず、人的な要素が絡むゲームでさえも我々はコントロールされている。
 人間的な要素が多いことがカジノ好きの理由でもあるが、やはりどの世界でもプロがいることを実感させられる。カジノには色々なプロがいるので、機会があれば他のトピックも紹介していきたい。

 プロフェッショナルを感じさせる点は大きく2点ある。まず、ディーラーの技量と冷静さ。日ごろから訓練していることを感じさせる振る舞いと実力。指示されたことに対して、難しいと思われることでも技術で結果を出していく姿勢。
 2点目は、顧客を楽しませるという点である。特にラスベガスはエンターテイメントという観点では、やはり最高水準ではないだろうか。韓国は金儲け色が強いし、マカオアメリカ各地にあるインディアンカジノは騒々しく落ち着かない。アトランティックシティもラスベガスほどエンターテイメント性を感じさせないし、ヨーロッパはアムステルダムのカジノしか訪問していないが気取りすぎ。オーストラリアも悪くないが、スタッフがプロっぽくない。テニアンは閉鎖的。
 長くなり過ぎたのでこのあたりは別の機会に譲りたいが、気持ちよく遊ばせようという姿勢が随所に感じられる。前述のピットボスもセンスのある奴だ。カジノは、「勝者をより大事にする」と言われているが、これも事実である。